〜第10話〜

静かなる欲望







<アーシャ>
もう、あれから10日も経つんだねえ。
戦争があったなんて嘘みたいに穏やかだよね。
<クリス>
街の方はそうでしょうねえ。
それほど大きな被害は特になかったし。
<クリス>
でも、軍の方では、今後の対策やら交易の方針やら
様々な会議がひっきりなしに行われているわ。
<エリーシア>
でも、一般人への被害が少なくて本当に良かったわ。
これもみんなアーシャのおかげよ。本当にありがとう。
<アーシャ>
いやいや、みんなががんばってくれたおかげだって。
実際に私がしたことなんて微々たるものだよ〜。
<エリーシア>
もう、謙遜しちゃって。
そうそう、今回の功績を称えて国王様からアーシャに
勲章が贈られるかもしれないって噂よ。
<アーシャ>
そんな祭り上げられても、困っちゃうよ〜。
<クリス>
深紅の魔法剣士アーシャの名が、世に轟くときがきたわね。
<アーシャ>
そんなの、轟かなくていいってば〜。
<アーシャ>
それじゃあ、私、ちょっと用事があるから、もう行くね。
<エリーシア>
あら? 何の用事?
<アーシャ>
う〜んと、ライナス先輩に話があるって呼ばれててね。
<クリス>
ついに愛の告白をされるときが来たのね!
<アーシャ>
もー、そんなわけないでしょ。
それじゃ、またあとでね。




<アーシャ>
こんにちは。
<ライナス>
すまんな、こんなところに呼び出して。
<アーシャ>
いえ、今日は特に仕事もないので大丈夫です。
ところで、大事な話って、いったいなんでしょう。
<ライナス>
ああ、そのことなんだが、
突拍子もない話になるが、冗談でこんな話をするわけでは
ないということだけ、理解しておいて欲しい。
<アーシャ>
はい。


ライナスの話を聞くアーシャ。


<アーシャ>
そんな、まさか・・・
<ライナス>
俺の憶測でしかないが、確信はしている。
これから、問い質しに行くつもりだ。
<ライナス>
できれば、ついてきて欲しい。
もし戦うことになったら、俺1人では勝てないだろう。
<アーシャ>
戦うだなんて、そんな・・・
<ライナス>
本当は、誰も巻き込みたくはない・・・。 それに、
何もしなければ、何事もなく日常が続いていくだろう。
だが、気づいてしまった以上、見過ごすわけにはいかないんだ。
<アーシャ>
わかりました。お供します。
もし、それが本当だったとしたら、私も許すことはできないから…
<ライナス>
すまない・・・


とある洞窟


<ライナス>
お待たせしました。
<レオン>
いや、私も丁度来たところだよ。
それにしても、急にこんなところに呼び出してどうしたんだ?
<ライナス>
単刀直入にお聞きします。
<ライナス>
先日のザルガスカとの戦において
ゴードンを殺したのは、レオン隊長ですか?
<レオン>
どうして、そう思う?
<ライナス>
ゴードンの受けていた傷は、心臓への一刺しでした。
ゴードンほどの男にあれほどの一撃を入れられる人間を
私は、あなた以外にしりません。
<レオン>
バロール将軍にやられてしまったのではないのか?
<ライナス>
バロール将軍の持っていた武器はツヴァイハンダー。
ゴードンの受けたような傷をつけるのは、まず無理です。
<レオン>
それじゃあ、術者に操られた味方に動揺して
その隙にやられたのかもしれないなあ。
<ライナス>
術者に操られていた死体には、まともな動きをするものは
いませんでした。いくら動揺や油断をしたとしても、
ゴードンがあのような致命傷を受けるとは思えません。
<レオン>
なるほどな。だからといって、私がゴードンを殺したなんて
話が飛躍しすぎじゃないか?
<ライナス>
あのとき、レオン隊長と一緒に敵陣へ向かった者たちからも
あのときの状況を聞かせてもらいましたが、あなた以外に
あの状況でゴードンを殺せるものがいるとは思えません。
<レオン>
あとは、動機があったら立派な容疑者だな。
<ライナス>
はい、その動機がわからないので
直接聞きに来たというわけです。
<レオン>
いやあ、まいったよ。街の魔物騒動が思ったよりも早めに
収集がついたから、兵が街のほうに分散されなくてさ。
私に疑いがかからないよう細工する暇があまりなかったんだよ。
<アーシャ>
なっ!
<レオン>
せっかく、便利な術を教えてやったんだから
もうちょっと戦争を長引かせてもらいたかったなあ。
<アーシャ>
術を・・
教えた・・・?
<ライナス>
ザルガスカが戦争に踏み切ったのも
あんたが原因ということか・・・
<ライナス>
そんなにべらべら話してしまっていいのか?
<レオン>
ここで無理にごまかして、これからずっと君に
疑いの目を向けられるよりは、ここで君がいなくなる方が
ましだと判断したのさ。
<アーシャ>
そんな、なんでそんなことを・・・
<レオン>
不自然なく人が死ぬには、戦争はうってつけでね。
<ライナス>
では、なぜ、戦争を起こしてまでゴードンを殺した!
<レオン>
私よりも強くなりそうだったからさ。
<アーシャ>
え?
<レオン>
アレスティア最強はこの私でなければならない。
他の者には譲れない。ただそれだけさ。
<アーシャ>
そんな理由で・・・
<レオン>
私がこの地位に上り詰めるまで、どれほど苦労したか
貴様らには、わかるまい。そして、それを脅かす者が
次々と現れてくることに対する苛立ち、恐怖・・・
<レオン>
私が血の滲むような努力で培ってきた技を
才能なんてもので一瞬で身に付けてしまう者…
<レオン>
私が気が遠くなるような訓練により得た身体能力を
なんの努力もなしに先天的に身に付けている者…
<レオン>
そんなものたちが少しでも努力し始めたら
私など、簡単に抜かれてしまう・・・
だから、抜かれる前に殺しただけだ。
<アーシャ>
なんて自分勝手な・・・
<レオン>
自分が一番になるためには
他の者を蹴落とさなければならない。当然のことだろう。
それとも、皆が一番になる方法でもあるというのか?
<アーシャ>
でも、その手段が
<レオン>
結果が全てなのだよ。いくらきれいごとで取り繕おうともな。
<レオン>
さて、無駄話はそろそろ終わりにしよう。
<レオン>
私がここまで秘密を明らかにしたのは、
君達を生きて帰さない絶対の自信があるからだと、
もちろん、わかっているだろうな!




ガタン!



<アーシャ>
きゃあ!?
<ライナス>
くっ、落とし穴か!
<レオン>
アーシャ君には地下に落ちてもらったよ。
2対1は何かと面倒なんでね。
<レオン>
だが、安心しろ。君を殺したら、すぐに後を追わせてやるさ。


落とし穴に落ちた先


<アーシャ>
(随分深くまで落ちちゃった・・・)
<アーシャ>
(でも、急いでライナス先輩のところまで戻らなきゃ!)





<レオン>
人間ってのはなあ、支配されているとわかっていると
不満を感じ、反発してくるものだ。
<レオン>
いくら力でいくら抑えようとしても
反乱分子は限りなくあふれ出てくる。
では、どうすればいいのか。
<レオン>
支配されていることに気づかれないように
支配してやればいいのさ。
<レオン>
お前も、私の築き上げた平和を
享受していればいいものを…
<ライナス>
あんたが英雄として人々を導いているのは事実だ。
あんたのような人間になることを夢見てがんばっている人は
数え切れないほどいるだろう。
<ライナス>
あんたのカリスマ、政治手腕、腕っ節の強さ、
それらのおかげで、この国の秩序が守られているといっても
過言ではないだろう。
<ライナス>
あんたが抑止力になって起きていない犯罪も
あんたがいるからこの国に攻めてこない国も少なくないだろう。
<レオン>
そこまでわかっていながら、私に刃向かうというのか。
<ライナス>
偽りだと気づいてしまった以上、見過ごすわけにはいかん!
あんたをここで倒し、わけあって旅に出たことにでもして、
皆の心には、英雄のあんただけを残させてもらう。
<ライナス>
だからこそ、誰にもこのことを告げず、
2人だけでここに来た。
<レオン>
大層な計画だ。
だが、私を倒すことなど不可能だ!
<ライナス>
ぐはぁ・・・
<レオン>
一足先に、あの世で待ってるんだな!

ボワッ!(火の玉がレオン目掛けて飛んできた)

<レオン>
くっ、以外に早かったな。
<アーシャ>
大丈夫ですか! 先輩。
<ライナス>
いや、しばらくは動けそうにない・・・
<アーシャ>
そうですか・・・
<ライナス>
・・・・
いざとなったら、あれを使う、覚悟しておけ。
<アーシャ>
でも、そんなことしたら先輩が・・・
<ライナス>
これしか方法がないんだ。
<レオン>
地下で死体を探す手間が省けて助かるよ。
<レオン>
しかし、正直なところ、君を失うのは惜しいよ。
単純で、かつ、強い君は、非常に使い勝手のいい駒だったのにな。
<レオン>
だが、知ってしまったからには、死んでもらうしかない。
2人仲良く、あの世に送ってやるよ!
<アーシャ>
そうやって、どれだけの人の希望を踏みにじってきたんですか!
<アーシャ>
自分の置かれる環境や立場、身体能力にもめげず、
ひたむきに努力している人たちがたくさんいるんです。
<アーシャ>
そんな人たちのためにも、負けるわけにはいかない!!













レオンに挑むアーシャ。

しかし、歯が立たず、満身創痍に・・・



<アーシャ>
うぅ・・・あぁ
<レオン>
ふん、盤上の駒ごときが・・・・

さあ、チェックメイトだ。
<ライナス>
まだだ!
いくぞ、アーシャ!
<アーシャ>
は、はい・・・

キュイーーーン

<レオン>
なに!?
<アーシャ>
さあ、いくよ!
<レオン>
貴様のどこにそんな体力が残っていると・・・
<レオン>
!!
そうか、ライナスの生命エネルギーが
お前に注ぎ込まれているというわけか・・・
<レオン>
しかし、いいのか?
そんなことをしたら、ライナスの命は・・・
<ライナス>
ここであんたに殺されるよりは、よっぽどましだ。
<レオン>
いいだろう、もう一度、絶望を味わうがいい!!














どうにかレオンに勝利するアーシャ。




<アーシャ>
はぁ・・・はぁ・・・
<ライナス>
なんとか、なったな・・・
<アーシャ>
先輩、大丈夫ですか?
<ライナス>
ああ、命に別状はなさそうだ。
(もっとも、もう騎士としては・・・)
<アーシャ>
そうですか。
<ライナス>
さて、これから忙しくなるぞ。
レオン隊長がいなくなる影響は、余りにも大きい・・・
<アーシャ>
それについてなのですが、
やはり、皆に真実を伝えた方がいいんじゃないでしょうか。
<ライナス>
レオン隊長の本性など、誰も信じてくれまい。
それどころか、逆に俺らは英雄を殺した大犯罪者になってしまうぞ。
<アーシャ>
ですが、自分の都合のいいように事実を歪曲してしまったら
レオン隊長と同じことをしているような気がして・・・
<ライナス>
レオン隊長のような、私利私欲のための歪曲ではない。
この国の平和のためだ。しょうがあるまい。
<アーシャ>
そうかもしれませんけど、でも・・・
<ライナス>
それに、もう、既に手は打ってある・・・
アーシャ、君とはここでお別れだ。
<アーシャ>
え?


ドゴッ!!


<アーシャ>
あ・・・
な、なんで・・・
<ライナス>
アーシャ・・・
君が、レオン隊長に代わる
新たな希望の光になると信じているぞ。

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