第9話 その3






<ゴードン>
レオン隊長、4番隊から連絡が入りました。
魔物騒動は、ほぼ沈静化したそうです。
<レオン>
よし。
我々もそろそろ攻め時ですね。
<ダグラス>
うむ、総員戦闘準備!

ザルガスカ帝国


<魔導師>
馬鹿な! なぜ結界がなくならない!?
なぜ魔力が途絶えた!?
<鎧の男>
ふん。 役立たずどもが・・・
<鎧の男>
もうよい。
全部隊と貴様の操る魔物で正面から総攻撃をかける!
<鎧の男>
それと、死体の傀儡も許可しよう。
<魔導師>
よろしいのですか? 世論が黙っておりませぬぞ。
魔物と共には攻めず、謎の魔物大量発生に見せかけるという
方針を選んだのも、そのためだったはずですが。
<鎧の男>
貴様らが役に立たんのだがら、しょうがないであろう!!
戦争は勝利さえすれば、後はどうとでもなる。
<鎧の男>
否、我々には勝利するしか、道は残されておらんのだ。
<魔導師>
かしこまりました。




<ライナス>
魔物の大群も、真っ直ぐこちらに向かってきていますね。
<ダグラス>
敵はもう、なりふりをかまってはいられない状況のようだな。
<レオン>
はっきりとした方向はわかりませんが
禍々しい魔力の源が感じられます。たぶん、そこに
魔物を操っている者がいると思われます。
<ダグラス>
では、レオン隊長は1番隊の少数精鋭でそっちへ向かってくれ。
私は砦の前で指揮を執る。
<ダグラス>
1番隊の残りはレオン隊長たちの進行をB地点まで援護。
2番隊と3番隊は砦を死守。
<ダグラス>
機を見て2番隊の一部もレオン隊長の後を追わせる。
<レオン>
了解。
ゴードン副隊長、及び、1番隊A班、行くぞ!
<ゴードン>
よっしゃあ! 腕が鳴るぜ!





<鎧の男>
さすが、アレスティアの騎士団。
魔物の群れも、ものともせんか・・・
<鎧の男>
(しかし、これだけの力を持っていながら
 なぜそれを行使しない・・・
 我は、それがどうしても許せんのだ!)





<ダグラス>
(この場も大分安定してきたな・・・)
<ダグラス>
よし、ライナス副隊長、及び、2番隊A班とB班は
レオン隊長の後を追え。
<ライナス>
了解。





<ゴードン>
(おっと、ちょっと先行しすぎちまったかな。
 ちょっと、他のやつらが来るのを待っとくか・・・)

グサッ・・・

<ゴードン>
へ?
<ゴードン>
な、なんで・・・あんた・・・がっ…





<レオン>
術者までもうすぐってところで、親玉の登場か・・・
<鎧の男>
ここから先にはいかせん。
レオン・ベルガラードよ!
<レオン>
ザルガスカの魔神と恐れられるバロール将軍が
俺の名前をご存知とは光栄だねえ。
<バロール>
アレスティア最強とうたわれる貴様が何を言うか。
<バロール>
そんなことよりも、貴様に問いたいことがある。
<バロール>
貴様らアレスティア王国は、これほどまでの力がありながら
なぜその力を行使しようとしない。
<バロール>
貴様らの武力を持ってすれば、
世界各地で起きている紛争を止めることも、
テロリストどもを根絶やしにすることも可能なはずだ。
<レオン>
武力での解決は、多くの犠牲と、さらなる戦争を生むだけだ。
<バロール>
そんなものは、自らの手を汚したくない者の言い訳に過ぎん!
圧倒的、絶対的力による全世界の統制!
これこそが、世界を平和にする最も合理的な方法だと思わんか?
<バロール>
貴様らアレスティアが他国と良好な交易を行えるのも
条約の締結が順調に進むのも、後ろに強大な武力が
控えているからだということが、わからんとでも言うのか?
<バロール>
世界が統制さえされれば、食料の安定供給も
医療、保健、福祉の整備も、思いのままなのだぞ。
<レオン>
その過程で多くのものが踏みにじられようともかまわないと?
<バロール>
世界中の飢餓や貧困に苦しむ者達や、
魔物に怯えて暮らしている者達を救うことができるのなら
少ない犠牲ではないか。
<バロール>
それとも、何の犠牲もなしに
この世界を救えるとでも思っているのか?
<レオン>
ああ、思っているさ。
<バロール>
なんだと?
<レオン>
例え不可能なことでも、できると信じて、
どうにか方法がないか、悩み考えるのが俺の信条なんでね。
<バロール>
我が悩み抜いて考えた方法が、武力による世界統制なのだよ!
<レオン>
違うね。
あんたは、考えるの止めただけなんだよ。
夢を信じるのを諦めただけだ!
<レオン>
俺は諦めない。困難だろうが、不可能だろうが、
何か方法がないか、最後まで足掻き続けてやるさ。
<レオン>
諦めが悪いんでね。
<バロール>
貴様の子供染みた幻想と、我の崇高なる理想を
一緒にしてもらっては困るな。
<レオン>
あんたこそ、理想と欲望を取り違えてるんじゃないか?
<バロール>
ふん、 欲望か・・・
<バロール>
例え、今は、悪者扱いされようとも
我の行動が正しかったと歴史が証明することであろう。
<バロール>
我は、我が信ずる道をただ突き進むのみ!
<レオン>
道は、いろんな人と一緒に、いろんな人に会いながら歩くべきだろ。
周りを無視して突き進んだら、迷ったときに助けてくれる人も
行き先を一緒に悩んでくれたりする人もいなくなってしまうからな。





<ライナス>
(あれは、レオン隊長。そして、その相手をしているのは・・・)
<ライナス>
(かなりできるな・・・レオン隊長が苦戦しているなんて・・・
 あれがザルガスカの将軍、バロールか?)
<ライナス>
レオン隊長、加勢します。
<レオン>
ライナスか・・・
ここはいいから、お前はこの奥にいる術者を頼む!
<ライナス>
了解。
<バロール>
行かせるものか!
<レオン>
おっと、あんたの相手は俺だろ。
<バロール>
くっ!
(他の兵士達も、自分の敵で手一杯か・・・)





<ライナス>
(だいぶ近いな。
 敵の魔力が強大だからではあるが、
 俺ですら、魔力の出所の方向がわかる・・・)
<ライナス>
(なっ、これは・・・)
<ライナス>
(戦死した兵士達を操っているのか・・・
 ここまで手段を選ばないとはな!)





<魔導師>
(やはり、私1人では制御に限界があるな。
 魔物はまだしも、死体は動きの全てを操作しなければ
 ならないから、近距離での使用が限界か・・・)
<魔導師>
(しかし、本国の魔導師がそのうち駆けつけてくる。
 そうなれば、状況も有利に傾くであろう。)
<兵士>
大変です!
アレスティアの兵士が1人、すぐ近くまで来ています。
<魔導師>
慌てるな。1人や2人くらい、抜けてくるやつもおるであろう。
私が返り討ちにしてくれるわ!





<ライナス>
(見えた、あそこか!)
<ライナス>
(さすがに警護も厳重だな。死体兵士の数も多い・・・)
<ライナス>
なっ!!
<ライナス>
ゴードン! なぜお前が・・・
<ゴードン>
・・・・
<ライナス>
お前ほどの男が、いったい誰に・・・
<ライナス>
・・・・
今すぐ、その邪悪な術の呪縛から解き放ってやるよ・・・


ズシャッ!






<ライナス>
お前が術者か・・・
<魔術師>
馬鹿な! たった1人で、どうやってここまで・・・
<ライナス>
貴様だけは、絶対に許さん!
<魔術師>
ひぃっ、ま、待て、
わっ私はただ、将軍様に命令されて


ズシャッ!





<レオン>
どうやら、術者が倒れたようだな。
<バロール>
くそっ!!
そろいもそろって、役立たずが!!!
<レオン>
投降するか?
<バロール>
ふん。
我も諦めが悪いのでな・・・
<レオン>
あんたが相手だと、手加減できないからな。
死ぬことになるぞ。
<バロール>
死ぬ覚悟もなく、戦場に立っているとでも思っているのか?
<レオン>
生憎、そんな覚悟は持ち合わせてないんでね。
<レオン>
戦場で一番大切なのは、生きようとする意志さ。















 私が砦に到着したときには、もう勝敗はほぼ決しており、
 私は負傷者の救護を手伝いました。


 戦の規模の割りには死亡者数は少なく、特にアレスティア側は
 数名の死亡者を出しただけで済みました。


 ですが、その中にゴードン先輩がいたのはショックでした。


 ザルガスカ側の戦争を引き起こした重要人物については
 アレスティアで身柄を拘束し、戦争の経緯や目的等について
 これからいろいろと取調べをしていくそうです。


 ですが、バロール将軍を始め、関係者の多くは
 既に死亡してしまっているため、詳しいことは
 あまりわからないかもしれません。


 どんな理由があるにせよ、戦争なんて絶対に起きて欲しくない、
 いえ、起こしてはいけないことだということを
 改めて強く思いました。

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