〜第9話〜

動き出す闇




街が見渡せる丘


<アーシャ>
(うん、今日もいい天気だねえ。)
<アーシャ>
(そういえば、あれからもう2年も経つんだなあ・・・)
<アーシャ>
・・・・
<アーシャ>
(あ、向こうから走ってくるのは・・・)
<アーシャ>
おはようございます。
<ライナス>
おはよう。
<アーシャ>
ライナス先輩は、いつもの早朝ランニングですか。
<ライナス>
ああ。
<ライナス>
君もこの場所を随分気に入ってくれたみたいだな。
<アーシャ>
はい、落ち込んでるときや、気合を入れたいとき、
気分転換をしたいときなんかに、良く来てます。
<ライナス>
今日は・・・
落ち込んだとき、か。
<アーシャ>
いえ、落ち込んでるってほどではないんですが・・・
<アーシャ>
騎士団養成学校を出てから2年ほどが経ちましたけど
目標に向かってちゃんと歩いていけているのか、
ちょっと心配になりまして。
<ライナス>
あれからもうそんなに経ったか・・・


回想シーン 騎士団養成学校


<ライナス>
正直いって、君は騎士団には向いていない。
<アーシャ>
そう…ですか・・・
<ライナス>
現在の騎士団の体制は、剣術なら剣術のみ、魔法なら魔法のみを
とにかく訓練させ、仕事でも、そのどちらかを使う機会しかない。
<ライナス>
君の「魔法と剣術を両立できる」という特性は活かされず
衰退させられてしまうだろう。
<ライナス>
次に、君の性格についてだが、
人を使役するという点において消極的すぎる。
また、困難を全て自分で背負おうとするきらいがある。
<ライナス>
まだまだ先の話だが、上の立場になっていくと
軍隊では特に、組織のために非情に徹して厳しい命令
をせざるを得ないときもある。
<ライナス>
君はそんなことができるような性格ではないと俺は思っている。
<ライナス>
そんなわけで、君は騎士団には向いていないと俺は思う。
しかし、騎士団に入る入らないを決めるのは君の自由だ。
向いていないというのも、俺の主観による意見でしかないからな。
<ライナス>
それに、たとえ向いていなかったとしても
人は変わろうと思えばいくらでも変われる可能性はあるし
騎士団の体制自体を変えていくことも可能だろう。
<ライナス>
まずは、騎士団に入って何をしたいと思っているのか、
それは騎士団に入らないとできないことなのか。
それを良く考えてみてもらいたい。
<ライナス>
それらを踏まえた上で、君に教えておきたいことがある。
<ライナス>
現在、アレスティア王国には、王国軍や国立魔法研究所のように
国の管理下にある組織の他に、自警団やハンターズギルド、
古代魔術や神聖魔法等の各分野専門の魔法研究所、
<ライナス>
古代文明を研究している機関から、農工関連の新技術の開発に
注力する機関など、様々な組織が存在する。
<ライナス>
しかし、これらの組織は互いに連携が取れていないのが現状だ。
特に国営の機関とその他の機関とのわだかまりは大きい。
<ライナス>
俺は、これらの組織間の橋渡しとなる者が必要だと考えている。
<ライナス>
君は魔法に関する知識もあり、遺跡や洞窟を探索する体力もあり、
新しいことでも古いことでも、偏見なく受け入れ考察できる
素直さも持っている。
<ライナス>
なので、各組織間の仲介を行う人物に適していると思っている。
もちろん、このような仕事をするには、まだまだ学ばなければ
ならない知識や経験が多々あるだろう。
<ライナス>
また、世の中の情勢や変化や産業の発達に伴い、
新たな知識を常に学んで取り込んでいかなければならない。
<ライナス>
もし、こちらの方面を目指すのなら、
まずはハンターズギルドに所属し、多種多様な仕事をすることで
多くの人たちと会い、様々な知識や経験を積むのがいいだろう。
<ライナス>
以上が、君の今後に対する俺からのアドバイスだ。
どうするかは自分の自由だ。じっくりと考えるといい。
相談したいことがあれば、遠慮なく言ってくれ。



回想シーン終わり


<アーシャ>
あれから、いろんな仕事をして、いろんな人に会って、
いろんなことを学んできたつもりです。
<アーシャ>
ですが、学んできたことを、ちゃんと活かすことが私にできるのか、
学ぶということが、ただの自己満足になってないか、
不安に感じるときがあるんです。
<ライナス>
自分なりに一生懸命努力していると思えるのなら大丈夫だろう。
結果というものは、得てして、あとから付いてくるものだ。
努力している最中に得られるものではない。
<ライナス>
もちろん、努力したからといって、
必ずしも良い結果が得られるとは限らない。しかし、
努力しなければ、良い結果は得られないはずだ。
<ライナス>
不安になろうとも、自分がなぜこんなことをしているのか
疑問に思おうとも、良い結果が出せそうになくとも、
それを努力をしない理由にせず、努力を続けていれば
<ライナス>
少なくとも、努力をしなかった場合よりは
ましな結果が得られるだろう。
<ライナス>
俺から言えるのは、それだけだ。
君がどれほど努力したのかの評価や、君がどれほど
努力すればいいのかの判断は、俺にできることじゃないからな。
<アーシャ>
いえ、ありがとうございます。
おかげで気持ちに整理がつきましたし、不安もなくなりました。
<ライナス>
そうか・・・



<男の声>
お〜い、ライナス。
<アーシャ>
ゴードン先輩、おはようございます。
<ゴードン>
アーシャちゃんも一緒か。丁度良かった。
大変なことが起きたんだ。一緒に来てくれ。


城下町


<アーシャ>
ええっ!!
ザルガスカ帝国が宣戦布告を!?
<ゴードン>
ああ。しかも、既に大軍が北の砦のすぐ近くまで
進軍してきてるそうだ。
<アーシャ>
確かに、ザルガスカ帝国とは、それほど関係が良好では
ありませんでしたけど、宣戦布告だなんて
いくらなんでも突然すぎませんか?
<ライナス>
他国を攻めざるを得ない事態に陥ったのか、
他国を攻める力を得たのか・・・
後者だと厄介だな。
<ゴードン>
とにかく、1番隊から3番隊は北の砦で待機、
4番隊、5番隊は、念のため国民を城内、中央広場、闘技場、及び
各地の騎士団の支所へと避難させろとのことだ。
<ゴードン>
というわけで、俺らは砦に向かう。
アーシャちゃんはギルドや自警団への現状の連絡と
避難の手伝いをしてくれないか。
<アーシャ>
はい、わかりました。

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