「Silent Desire 2」と「Silent Desire 3」の間のお話。
ストーリーや設定の補完のために用意したものです。
補完のためというよりは、どちらかというと、私の自己満足のためかもしれません。
(せっかく考えた設定とかそういうのを、自分の頭の中だけに
 しまっておくのはもったいなく感じたというか、なんというか)


■ とある森にて ■
「着きましたよ。ここが地図のCの地点です」
私の名前はアーシャ。
アレスティア王国のギルドに所属している者です。
今日は仕事でクレイオスの森に来ています。
「わかりました。それじゃあ早速、準備しますね」
この人はユーシスさん。
動植物に詳しい方で、王国から森の調査を依頼され、
今まさに調査をしようとしているところです。
私は道案内と護衛のために付き添っています。

2週間ほど前のことなんですが、この森で、森の生態系が
崩壊しかねない大事件が起こりまして、一応は事なきを
得たはずなんですが、本当に問題がないかどうかを
改めて調査しているところです。
「ここも、ぱっと見た感じでは
 問題なさそうですかね?」
「そうですね。今まで調べてきた場所も
 特に問題ありませんでしたし、
 他もたぶん大丈夫だとは思います。
 念の為、全て調べますが」
「そうですか。あんなことがあったから、
 ちょっと心配してたんですけど、良かったです」
「例の環境維持や監視といった機能は
 あくまで補助的なものだったんでしょうね。
 なので、それが機能しなくなったとしても
 森が元々持っている調節作用により
 生態系はちゃんと維持されるはずです」
「元々の調節作用?」
「はい、例えば、ある動物Aの数が増えた場合、
 その動物Aを捕食する動物が増えることで、
 もしくは、動物Aに捕食される動物が減ることで、
 動物Aの数が増えすぎたりしないよう
 自然と調整されていくんですよ。
 人の目から見たら時間はかかりますが」
「そうなんですかあ」
「その調節が間に合わないほどの極端な変化が
 これまでの調査で特に見られないので
 心配なさそうだ、というわけですね。
「さて、準備も整いましたので
 早速調査を開始しましょう」
「はい」
■ ギルド ■
「マスター、
 私もアーシャみたいに強くなれんのかなあ?」
「それはシルファさんのやる気と努力次第ですよ」
「でも、やる気があっても才能がなきゃさあ」
「普通の人の努力で補えないほどの才能を
 最初から持っている人なんて、ほとんどいませんよ。
 それこそアーシャさんは典型的な努力でのし上がって
 きたタイプですし」
「ほんとにー?」
「本当ですよ。
 そうですね、そろそろアーシャさんが戻って来る頃なので
 今から明日のこの時間まで一緒に行動してみるというには
 どうでしょう」
「ん、じゃあ、アーシャが良いってんなら
 付いていってみようかな」
■ アーシャが森の調査から戻って来た後 ■
「というわけで、付いていって観察したいんだけど」
「う〜んと、構わないけど
 別に何か特別なことしてるわけでもないし
 観察なんてしても、得られるものがあるかどうか・・・」
「どうせ今日は暇だから大丈夫だよ。
 で、これからどんな予定なんだ?」
「えっと、知り合いに会うために魔法研究所に寄って
 それから家に帰る予定。日課の訓練はその後だね」
「了解。じゃあ、早速行こうぜ」
「うん。
 それじゃあお疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れさ〜ん」
■ 魔法研究所 ■
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい、アーシャ。
 それと、あなたはシルファさんね。こんにちは」
「こんちは。
 この前はどうも」
「頼んでおいたアイテムってもう出来てる?」
「えぇ、もちろん。
 そこの棚に置いてあるから帰る時に持っていってね」
「うん、ありがとう」
「頼んでおいたアイテムって?」
「傷薬とか、その他諸々だよ。
 集めた材料を良くここで加工して貰ってるんだよね。
 格安だから」
「へー」
「そういえばエリーがアーシャに話があるって言ってたわよ。
 そろそろ訓練の休憩時間だから東の広場に行けば
 会えると思うけど」
「じゃあ、ちょっと行ってみようかな。
 シルファ、ここで待っててもらってもいい?」
「あぁ、別にいいよ」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「紅茶を淹れてたところなんですけど
 シルファさんも飲まれます?」
「あぁ、でもその前にお願いがあるんだけど
 私のことは呼び捨てでいいよ。敬語もなしで。
 あと、私もクリスって呼んでいいかな?」
「いいわよ別に。
 私も堅苦しいのは好きじゃないし」
「さん付けで呼んだり呼ばれたりするのって
 どうも苦手でさ」
■ 東の広場 ■
「エリー、お疲れ様。
 何か話があるってクリスに聞いたんだけど」
「あら、悪いわね、来てもらっちゃって。
 話っていうのは、例のスカウトのことなんだけど」
「あぁ、例の特殊部隊の・・・」
「えぇ。先方が、話を聞いてくれるだけでもいいから
 どうしてもって中々引き下がらなくて・・・
 申し訳ないけど、一度会って貰えないかしら?」
「う〜ん、直接会ってキッパリと断った方が良さそうだね。
 私が都合の良い日時をエリーかクリスに
 後で伝える形でいいかな?」
「そうしてもらえると助かるわ。
 ごめんなさいね」
「別に気にしなくていいって」
■ 魔法研究所 ■
「行ってきたー。
 クリスの言った通り、丁度会えたよ」
「それは良かったわ。
 アーシャも紅茶飲む?」
「あ、うん、お願い」
「そういえば、アーシャの髪の毛、最近なんだか
 随分とサラサラでツヤツヤしてると思うんだけど
 なんでかしら?」
「へ? そうなの? なんでだろ?
 う〜ん・・・あ、そういえば、この前ユーシスさんに
 髪を洗った後に付けるといいですよって
 植物から採れたっていう油を貰ったんだよね」
「あぁ、私にもこの前分けてくれたやつか」
「ヘアオイルになんて見向きもしなかったアーシャが
 ついにオシャレに目覚めたのね」
「いや、あの、せっかくの頂き物を
 使わないのも悪いかと思っただけだよ」
「ていうか、今までそういう類の物って
 全然使ってなかったのかよ」
「だって別に必要を感じなかったから」
「でも、こんなにも差が出るってわかったでしょ。
 これを気に身だしなみを人並みに気をつけなさいよ」
「うーん、努力はしてみます・・・」
■ アーシャ達が出て行った後の魔法研究所 ■
「あ、エリー、お疲れ様」
「お疲れ様。
 アーシャはもう帰ったかしら?」
「今さっき出てったところよ。
 何か用事でもあった?」
「用事があるわけじゃないわ。  話はさっきしたし、ただ確認しただけよ」
「ところで、ちょっと重要な話があるんだけど」
「重要な話?」
「アーシャに女性らしさが欠けているのは
 やっぱり、職場の環境に男性が多くて、かつ、
 その男性達に女性に対する気遣いの出来る人が
 全然いないことに問題があると思うのよ。
 そもそも、女性として扱われているかどうかも怪しいわ。
 戦士としてしか見られてないんじゃないかしら」
「・・・それはどこがどう重要な話なのかしら?」
「だからといって、私達が化粧品や装飾品を勧めても
 遠慮せずに『要らない』と断られてしまう、でも、
 仕事先の人なんかから貰ったものは断らずに
 ちゃんと使用するってことが今回わかったのよ」
「・・・それで?」
「この性質を上手く利用して、アーシャの女性さしらを
 向上させる作戦をエリーと一緒に考えようと思って」
「一人で考えればいいでしょ」
「一人でそんなこと考えてもつまんないじゃない」
「つまり、そういう話をしたいだけなんでしょ。
 私だって色々忙しいんだから、もう行くわよ」
「じゃあ、そっちの話題は置いておいて
 ルーファス君の恋愛事情についてのお話をしましょうか」
「れ、恋愛事情だなんて、
 まだそんな歳じゃないし何かあるわけないじゃない」
「あら、ルーファス君、けっこうモテるのよ。
 この前も公園で女の子と2人きりで
 いい感じの雰囲気になっててね・・・
 ・・・ちょっと、剣のグリップを握り締めるのは
 怖いから止めてくれない?」
「え、あぁ、ごめんなさい、つい」
(これは予想以上に色々からかえそうね・・・)
■ アーシャの住んでいる家 ■
「ここがアーシャの家かあ。
 一人暮らしにしては随分広いな」
「うん、以前は両親と弟と私の家族4人で暮らしてたから。
 私だけここに残って、3人は故郷に帰ったから」
「故郷ってレガリア共和国?」
「そうだよ。話したことあったっけ?」
「いや、あっちは赤い髪の人が結構いるから
 そうなのかなあって思って」
「あぁ、なるほど」
「両親は何やってる人なの?」
「ええと、前は行商人として各国を点々としてたんだけど
 今はレガリアで行商関係の仕事を取り仕切ってるよ。
 ここも、点々としていたときの住処の1つなんだよね」
「へぇー、行商ねえ」
「シルファは?」
「私のところは・・・ちょっとワケありでさ。
 できれば話したくないんだけど・・・」
「え、あ、そう、なんだ。 えっと、了解」
「悪いな。
 で、訓練って何するんだ?」
「んー、剣の素振りとか走りこみとか色々」
「へー
 じゃあ、いつも通りやってみてよ。
 私も一緒に真似てやってみるから」
「うん、わかった」


■ しばらくして ■
「はい、これで一通り終わりだよ」
「ハァ、ハァ・・・
 毎日こんなこと、ハァ、ハァ・・・
 やってんのかよ」
「うん、基本的には。
 それじゃあ私は2セット目をやってくるから」
「・・・・はぁ!?」
「5セットやるのが日課だから」
「5セット・・・」
「シルファはそこでゆっくり休んでてよ」
「お、おう・・・」
(そりゃあ、毎日こんなに訓練してりゃ強くもなるわ。
 ていうか、1セット目よりペース速いじゃん。
 てことは最初は私に合わせてくれてたんだろうなあ)
「ハァハァ・・・
 ふぅー、お待たせ」
「すげーな、良く5セットも続けてできんな」
「私も養成学校に入ったばかりのときは1セット目で
 もうヘロヘロで動けなかったよ。
 続けているうちに段々とセット数を増やせるように
 なったから」
「そうなんだ」
「それじゃそろそろ夕飯にしようか」
「おう」
■ アーシャの家の中 ■
「お、カレーかあ」
「うん、お隣さんが沢山作りすぎたって
 持って来てくれたやつなんだけど
 沢山あるからどんどん食べてよ」
「そんじゃ遠慮なくいただきまーす」
■ 食事の後 ■
「え? 泊まっていくの?」
「迷惑なら帰るけど」
「そんなことはないけど
 ベッドとかどうしようかな」
「別に床でいいよ。
 最近、暑くなってきたところだし
 毛布とかも特にいらないし」
「いや〜、そういうわけには・・・
 あ、そうだ、ハンモックならすぐに
 用意できるよ」
「じゃあ、それで」
■ 就寝前 ■
「アーシャはなんでギルドで働いてんだ?」
「へ? なんでっていうと、えーと・・・」
「私はさ、ゼライドのところに居候させてもらってるもんで
 あいつの仕事を手伝うことが良くあったんだけどさ、
 アーシャはなんで親元を離れてギルドで仕事してるんだろうなって。
 親の仕事を手伝うっていう選択肢をなんで選ばなかったのかなって」
「あぁ、それは」
「何か言いにくい事だったら別にいいから。
 ふと疑問に思っただけだからさ」
「まあ、ちょっと恥ずかしいという意味では
 言いにくい事かもしれないんだけど、
 『大事なものを守れる力が欲しかったから』かな」
「大事なものを守れる力?」
「小さい頃に街外れの広場で弟と遊んでいたときに
 そこに魔物が迷い込んできたことがあってね。

 すぐに大人の人たちが来て追っ払ってくれたから
 別に誰も怪我とかしたわけじゃないんだけど
 私は恐怖で震えて一歩も動くことができなくてさ。

 でもね、弟は私を庇うように前に出て魔物と向き合って
 くれたんだよね。

 弟の面倒を良く見るしっかり者のお姉ちゃんだったつもりが
 いざとなったら逆に守られる立場になっていたっていうのが
 情けなくて、悔しくて、そしてそれ以上に大事なものを
 守る力を自分は持っていない、何かあったときに何も守れない
 という事実がすごく怖くてさ。
 それで、大事なものを守れるように強くなろうって
 思ったんだよね。
 それが、戦う側に進むことになる最初のきっかけかな」
「そっかあ・・・
 それにしても魔物に怯えるアーシャなんて
 今からじゃ全く想像できないな。
 魔物の方が怯えて逃げ出すよな」
「いや、そんなこと・・・たまにあるけど・・・」
「ハハッ あるんだ」
(大事なものを守れる力、かあ・・・)
■ 早朝 ■
「ふぁ〜あっと」
(もう朝かあ。って、あれ? アーシャは?)
「おはよう、シルファ」
「おはようさん、もう起きてたんだ」
「うん、牛乳の配達に行ってきたところ」
「そんなこともしてんのか」
「うん、ジョギングついでに。
 はい、焼きたてのパンと牛乳、それと
 この果物は牧場に行く途中で知り合いに貰ったの」
「ちょっと待て、牛乳配達って牧場まで行ってきたのか?
 街の支店から各家への配達だけじゃなくて」
「うん、牧場から支店に牛乳を運んできたんだけど」
「牧場って、南の丘を向こうにある奴だよな?」
「そうだよ」
「こっから何キロあると思ってんだよ。
 朝からパワフルだなあ・・・」
「あぁ、そういえば、昔は牧場までは
 ジョギングに行ってなかったっけ。
 訓練って意識がなかったから声かけなかったけど
 シルファも誘うべきだったね、ごめん」
「いや、誘われても行かなかっただろうから大丈夫」
(ていうか、昨日の訓練のせいで筋肉痛だし・・・)
「まあ、それはさておき、とりあえず朝食にしようぜ。
 焼きたてのパンのにおいをかいだら腹へってきたよ」
「そうだね」

■ ギルド ■
「それじゃあ森の調査、行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
「おう、気をつけてな」
 
「どうでした?」
「う〜ん・・・とりあえず、今のままじゃ
 とてもじゃないけど追いつけないってのが
 良く分かった」
「そんなシルファさんのために
 スペシャル特訓メニューを考えてみました」
「はぁ?」
「そこに書いてある特訓内容を毎日続ければ
 シルファさんの特性を伸ばしつつ、
 足りない部分を補うことが出来るはずですよ」
「はあ、どうも・・・
 って、随分とキツそうな内容だなあ」
「慣れてきたら、回数を増やしたり
 内容を改良していかないと駄目ですよ。
 どうすれば強くなれるかを常に考えることが大事ですから」
「一応、ありがたく頂戴しとくよ」
(ちょっと頑張ってみようかな・・・)


■ 数日後 ■

「マスター、ちょっとお願いがあるんすけど」
「なんですか?」
「ちょっと稽古をつけて頂けないかなあと
 思ってるんすけど」
「どういう風の吹き回しですか?」
「なんか最近、シルファが毎日けっこうハードな
 トレーニングをしてるみたいなんすけど
 万が一負けたりしたらシャレにならないんで・・・」
「そうですか。
 昼過ぎなら時間が取れますから、それでよければ」
「はい、よろしくお願いします」
(この調子ならメンバーの実力底上げ計画は
 順調に進みそうですね・・・)


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